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⑩アイヌ政策を考える国会議員とアイヌ民族の集い
                  (文責)出原
                    2011218日・午後2時~3
                  於:衆議院第2議員会館・第3会議室
                                   
1、アイヌ・モシリの歴史
1443年  和人によるアイヌ・モシリへの移住始まる。
1457年  コシャマイン蜂起 当時のアイヌ人口は50万人
1669年  シャクシャイン蜂起 10月、松前藩、和解の席でシャクシャインを毒殺
1789年  クナシリ・メナシの蜂起 ノッカマップの虐殺
1855年  日露通好条約を締結 日露で先住諸民族を無視して国境線を引いて分断
*植民地化・同化政策
 1869年   明治政府はアイヌ・モシリ(人間の大地)を主のいない土地として一
                  方的に日本領土とし、開拓使を設置、「北海道」と命名する。
 1871年   アイヌを「平民」籍に入れ、和人式姓名を強要。「旧土人」呼称を公
                  文書で用いるように指示。耳環、入墨、家屋葬送を禁止、日本語の使                   用を強制する。
 1872年  「北海道土地売貸規則・地所規則」を制定。(1人につき10万坪以内
                  の土地を払い下げ。ただしアイヌ民族は対象外。)
 1876年   アイヌの仕掛け弓猟(毒矢)を禁止。アイヌに創氏を強要。
 1877年  「北海道地券発行条例」制定アイヌの居住地所を「無主地」と官有地化
 1883年   鮭漁の禁止。
 1886年  「北海道土地払い下げ規則」(和人に官有未開地を110万坪払い下げ
                  または無償貸付する。)
1897年  「北海道国有未開地処分法」公布。(開墾・牧畜・植樹等の用地一戸
      当たり150万~250万坪を無償貸付、会社・組合はその2倍の面積可
      能。成功後無償付与。華族、大資本を優遇。)
*強制移住・強制連行・徴兵
1872年  開拓使、35人のアイヌ民族を開拓使仮学校土人教育所(芝・増上寺)
     に強制連行。(2003年から首都圏のアイヌ民族により8月にイチャルパ
     が行われる。)
1875年 「樺太・千島交換条約」。1876年サハリン(樺太)のアイヌを宗谷経由
     で対雁(江別)へ強制移住。1877年、対雁でアイヌ多数がコレラに罹
     患、10年間余で半数強が亡くなる。
1884年  クリル列島(北千島)のアイヌ97人を色丹島へ強制移住。1888年には
     約半45人が亡くなる。
*日本敗戦後、サハリン・クリルのアイヌ民族は「日本国籍者」として日本へ
 の移住・追放される。
1888年  宮内省、「新冠御料地」を「新冠御料牧場」と改称し、アイヌ約400
     を奥地のアネサルに強制移住。
1898年  全道に徴兵令。(同年、沖縄にも徴兵令。徴兵令発布は1873年。)
*北海道旧土人保護法・旭川市旧土人保護地処分法
1899年  北海道旧土人保護法公布。アイヌ民族の伝統的な生業を禁止、生産手
     段・土地を奪った上で給与地(15千坪)を与え農耕民化。「旧土人」
     の小学校を新設。農業以外の業種の援助は一切なく、土地(荒地)に
     縛りつけられる。
1901年  「旧土人教育規定」で「土人学校」(アイヌ民族の皇民化)を設立。
1906年  道庁、旭川の近文給与地を旭川町に貸与し、アイヌには1戸1町歩の
     給与予定地を30年期限で貸付。(給与地は5町歩)
1932年  軍都旭川の「近文土地返還の闘い」
1934年  旭川旧土人保護地処分法(近文アイヌ49戸に11町歩・5千坪を給与)
*アイヌ民族団体・民族の復権
1930年  アイヌ初の全道的組織「北海道アイヌ協会」が道庁の主唱で設立され
     る。
1946年  2月、北海道アイヌ協会を設立。「全ウタリー(同胞)よ、真に覚醒し
     蹶起せよ。・・・本道はアイヌの国なのだ」(山本多助「アイヌ新
     聞」)
1947年  北海道アイヌ協会、大会で給与地の農地改革法の適用除外を決め、
     道庁・政府に陳情。(給与地の多くが和人の耕作地となっており、形式
     上アイヌが地主、和人が小作人になっていた。陳情は不許可でアイヌが
     給与地を失う)
1961年  北海道アイヌ協会、「北海道ウタリ協会」と名称を変更。
1972年  旭川アイヌ全戸で旭川アイヌ協議会を設立。
1975年  1回「東京在住ウタリ実態調査」を実施。首都圏のアイヌの成果。
1982年  北海道ウタリ協会、北海道と全千島における先住権を総会で確認。
1984年  北海道ウタリ協会、「北海道旧土人保護法」の廃止とアイヌ新法制定
     を採択。
1989年  2回「東京在住ウタリ実態調査」を実施。
1991年  国連人権規約に基づく報告書で、政府はアイヌを本規約の「少数民族」
     と初めて認める。(それまではアイヌは同化したと民族の存在そのも
     のを否定。)
1992年  野村義一理事長、国連本部で開催の「世界の先住民年のための国際年」
     開幕式で演説。
1994年  萱野茂 参議院議員繰り上げ当選。(アイヌ初の国会議員)
1997年  「アイヌ文化の振興並びにアイヌの伝統に関する知識の普及及び啓発に
     関する法律」(アイヌ文化振興法)を公布。自立化資金などは排除さ
     れ、「文化」のみの施策。後、首都圏で関東ウタリ会、東京アイヌ協
     会、ペウレ・ウタリの会、レラの会と個人を構成団体・構成員として
     アイヌウタリ連絡会を結成。 
     二風谷裁判で札幌地裁が実質原告勝訴の判決をだす。アイヌを先住民族
     として認め、文化享有権が憲法13条で保障されるとした。
2007年  先住民族の権利に関する国連宣言が国連総会で採択。(反対4カ国、
     現在は受諾)先住民族を国際法上の主体とする。民族自決権、権利は
     譲渡不能。
2008年  「アイヌ民族を先住民族として認めることを求める決議」(衆・参
     両院で採択)
2009年  「アイヌ政策のあり方に関する有識者懇談会」が報告書を内閣官房
     長官に提出。
     歴史的責任と国連宣言は切り離され、施策は「文化」「福祉」に限ら
     れる。
2011年  春にも上記報告書をフォローアップするアイヌ政策推進会議の報告
     が予定。
*以上、川村カ子トアイヌ記念館作成年表、「アイヌ民族の近現代史」(小笠原信之著)、「アイヌの歴史」(榎森進著)参照

2、日本政府のアイヌ政策の見直しの基本的立場
先住民族の権利に関する国連宣言における「先住民族」と「アイヌ民族を先住民族とすることを求める」国会決議における「先住民族」が、「同義であるか結論を下せる状況にない」
*注:先住民族アイヌを権利主体と認めない。
(福田康夫内閣総理大臣から鈴木宗男衆議院議員への答弁書、2008624日(答弁第549号、現在も維持))
◆「これまでのアイヌ政策をさらに推進し、総合的な施策の確立に取り組む」(国会決議・官房長官談話)
*注:アイヌ文化振興法に基づく政策からの転換はない。国連宣言はあくまで参照で切り離し。上記2点が有識者懇談会、アイヌ政策推進会議に強い影響、基本的立場となっている。
歴史認識:「法的には等しく国民でありながら差別され、貧窮を余儀なくされた」「国の政策として近代化を進めた結果、アイヌの文化に深刻な打撃を与えたという歴史的経緯を踏まえ、国には先住民族であるアイヌの文化の復興に配慮すべき強い責任がある」(有識者懇談会報告書)
*注:「アイヌ民族と日本人は日本国民。権利も対等」「国は近代化(歴史の自然の流れ)をおこなっただけ」と主張して、アイヌへの植民地支配の事実と歴史的な加害責任を否定
*「有識者懇談会報告書」では、アイヌが土地を失ったのは、「(アイヌ民族に)近代的な意味での土地所有の観念がなかったこと、文字を理解する人はごく少数であった」ためとし、アイヌ語を失ったことに関しても「アイヌ語についても禁止した訳ではなかったが、文字も含めて日本語が推奨された。」「同化政策は教化であった」と加害責任を否定、「アイヌが近代化に対応できなかった」と記述。(自己責任) 
国連人権機関―人種差別撤廃委員会の勧告(20103月)―からの勧告
*現在の政策の見直しを審査して「限定的である」と懸念を表明。先住民族の権利に関する国連宣言など国際約束に基く権利回復を協議する新たな作業部会を設置すること、そうした協議にアイヌの代表を増大させることを勧告。(引用文は下記

3、先住民族の権利に関する国連宣言(採択時は4カ国反対、現在は受諾)―権利回復の根拠は
.先住民族の権利の根拠         (引用分は市民外交センターの翻訳)
【前文第6 段落】
先住民族は、とりわけ、自らの植民地化とその土地、領域および資源の奪取の結果、歴史的な不正義によって苦しみ、したがって特に、自身のニーズ(必要性)と利益に従った発展に対する自らの権利を彼/女らが行使することを妨げられてきたことを懸念し、
【前文第7 段落】
先住民族の政治的、経済的および社会的構造と、自らの文化、精神的伝統、歴史および哲学に由来するその生得の権利、特に土地、領域および資源に対する自らの権利を尊重し促進させる緊急の必要性を認識し、
●先住民族に対する国境内植民地化を「歴史的不正義」と断定し、その権利は外から押し付けたり与えられるものではなく「生得の権利」であり、その中心は他のマイノリティーと異なり「特に土地、領域および資源に対する自らの権利を尊重し促進する緊急の必要性を認識」と明記している。
【前文第4 段落】
国民的出自または人種的、宗教的、民族的ならびに文化的な差異を根拠として民族または個人の優越を基盤としたり、主唱するすべての教義、政策、慣行は、人種差別主義であり、科学的に誤りであり、法的に無効であり、道義的に非難すべきであり、社会的に不正であることをさらに確認し、
●民族や人種を根拠とする差別を反社会的行為と厳しく指弾し、諸民族の対等・平等を担保。
.先住民族の諸権利
*第3 条 【自己決定権(自決権)】・()内は資料作成者が挿入
先住民族は、自己決定の権利(自決権)を有する。この権利に基づき、先住民族は、自ら
の政治的地位を自由に決定し、ならびにその経済的、社会的および文化的発展を自由に追求する。
*第5 条 【国政への参加と独自な制度の維持】
先住民族は、国家の政治的、経済的、社会的および文化的生活に、彼/女らがそう選択すれば、完全に参加する権利を保持する一方、自らの独自の政治的、法的、経済的、社会的および文化的制度を維持しかつ強化する権利を有する。
*第11 条 【文化的伝統と慣習の権利】
1. 先住民族は、自らの文化的伝統と慣習を実践しかつ再活性化する権利を有する。これには、考古学的および歴史的な遺跡、加工品、意匠、儀式、技術、視覚芸術および舞台芸術、そして文学のような過去、現在および未来にわたる自らの文化的表現を維持し、保護し、かつ発展させる権利が含まれる。
2. 国家は、その自由で事前の情報に基づく合意なしに、また彼/女らの法律、伝統および慣習に違反して奪取されたその文化的、知的、宗教的およびスピリチュアル(霊的、超自然的)な財産に関して、先住民族と連携して策定された効果的な仕組みを通じた、原状回復を含む救済を与える。
*第12 条 【宗教的伝統と慣習の権利、遺骨の返還】
1. 先住民族は、自らの精神的および宗教的伝統、慣習、そして儀式を表現し、実践し、発展させ、教育する権利を有し、その宗教的および文化的な遺跡を維持し、保護し、そして私的にそこに立ち入る権利を有し、儀式用具を使用し管理する権利を有し、遺骨の返還に対する権利を有する。
2. 国家は、関係する先住民族と連携して公平で透明性のある効果的措置を通じて、儀式用具と遺骨のアクセス(到達もしくは入手し、利用する)および/または返還を可能にするよう努める。
*第26 条 【土地や領域、資源に対する権利】
1. 先住民族は、自らが伝統的に所有し、占有し、またはその他の方法で使用し、もしくは取得してきた土地や領域、資源に対する権利を有する。
2. 先住民族は、自らが、伝統的な所有権もしくはその他の伝統的な占有または使用により所有し、あるいはその他の方法で取得した土地や領域、資源を所有し、使用し、開発し、管理する権利を有する。
3. 国家は、これらの土地と領域、資源に対する法的承認および保護を与える。そのような承認は、関係する先住民族の慣習、伝統、および土地保有制度を十分に尊重してなされる。
*第28 条 【土地や領域、資源の回復と補償を受ける権利】
1. 先住民族は、自らが伝統的に所有し、または占有もしくは使用してきた土地、領域および資源であって、その自由で事前の情報に基づいた合意なくして没収、収奪、占有、使用され、または損害を与えられたものに対して、原状回復を含む手段により、またはそれが可能でなければ正当、公正かつ衡平な補償の手段により救済を受ける権利を有する。
2. 関係する民族による自由な別段の合意がなければ、補償は、質、規模および法的地位において同等の土地、領域および資源の形態、または金銭的な賠償、もしくはその他の適切な救済の形をとらなければならない。
*第43 条 【最低基準の原則】
本宣言で認められている権利は、世界の先住民族の生存、尊厳および福利のための最低限度の基準をなす。

4、人種差別撤廃委員会  第76会期   2010215日-2010312
条約第9条にもとづき締約国が提出した報告書の審査   人種差別撤廃委員会総括所見

20.委員会は、アイヌ民族を先住民族と認めたことを歓迎し、締約国による約束を反映する諸施策(象徴的な公共施設の設置に関する作業部会の設立、および北海道外のアイヌのおかれた状況に関する調査を行なうための作業部会の設置を含む。)を関心をもって留意しつつも、以下のことに懸念を表明する。
(a)各種の協議体や有識者懇談会おいてアイヌ民族の参画が不充分であること。
(b)アイヌ民族の権利の発展および北海道におけるその社会的地位の改善に関する国レベルの調査がなされていないこと。
(c)「先住民族の権利に関する国際連合宣言」の実施に向けたこれまでの進展が限定的であること(第2条、第5条)
委員会は、アイヌ民族の代表者との協議の結果を、アイヌの権利を取り扱う、明確で焦点を絞った行動計画を伴なう政策およびプログラムに結実させるべく、アイヌ民族の代表者と協力してさらなる措置をとること、および、そのような協議へのアイヌ民族の代表者の参加を増大させるよう勧告する。委員会は、また、締約国が、アイヌ民族の代表者との協議のもと、「先住民族の権利に関する国際連合宣言」などの国際約束を検討し、実施することを目的とした第3番目の作業部会の設置を検討するよう勧告する。委員会は、締約国に対し、北海道のアイヌ民族の生活水準に関する国レベルの調査を実施するよう要請し、締約国が委員会の一般的な性格を有する勧告231997年)を考慮するよう勧告する。委員会は、さらに、締約国が、国際労働機関の「独立国の先住民および種族民に関する第169号条約」の批准を検討するよう勧告する。
*先住民族の権利に関する国連宣言・第18条 【意思決定への参加権と制度の維持】
先住民族は、自らの権利に影響を及ぼす事柄における意思決定に、自身の手続きに従い自ら選んだ代表を通じて参加し、先住民族固有の意思決定制度を維持しかつ発展させる権利を有する。
21.委員会は、ユネスコがいくつかの琉球言語、ならびに、沖縄の人びとの独自の民族性、歴史、文化および伝統を認識していること(2009年)を強調しつつも、沖縄の独自性について当然に払うべき認識に関する締約国の態度に遺憾の意を表明するとともに、沖縄の人びとが被っている根強い差別に懸念を表明する。委員会は、さらに、沖縄への軍事基地の不均衡な集中が、住民の経済的、社会的および文化的な権利の享有に否定的な影響を与えているという、「現代的形態の人種主義に関する特別報告者」の分析を繰り返し表明する(第2条、第5条)。
委員会は、締約国に対し、沖縄の人びとの権利を促進し、および適切な保護措置および政策を確立するため、沖縄の人びとが被っている差別を監視するために沖縄の人びとの代表者との幅広い協議を行なうよう奨励する。
22.委員会は、2言語を話す相談員や7言語で書かれた入学手引など、マイノリティ集団の教育を促進するために締約国が払ってきた努力を、評価をもって留意する。しかし、委員会は、教育制度のなかで人種主義を克服するための具体的なプログラムの実施についての情報が欠けていることに遺憾の意を表明する。さらに、委員会は、子どもの教育に差別的な効果をもたらす行為に懸念を表明する。そのような行為には、以下のものが含まれる。
(a)アイヌの子どもまたは他の民族集団の子どもが、自己の言語を用いた、または自己の言語についての、指導を受ける機会が十分にないこと。
(b)締約国において、外国人の子どもには義務教育の原則が、日本が締約国である、本条約第5条、「児童の権利に関する条約」第28条、「経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約」第13条(2)に適合する形で全面的には適用されていないという事実。
(c)学校の認可、同等の教育課程、上級学校への入学に関連する障害。
(d)締約国に居住する外国人、韓国・朝鮮出身者の子孫および中国出身者の子孫のための学校が、公的支援、助成金、税の免除に関して差別的な取り扱いを受けていること。
(e)締約国において現在、公立および私立の高校、高等専門学校、高校に匹敵する教育課程を持つさまざまな教育機関を対象とした、高校教育無償化の法改正の提案がなされているところ、そこから朝鮮学校を排除するべきことを提案をしている何人かの政治家の態度(第2条、第5条)。
委員会は、市民でない者に対する差別に関する一般的な性格を有する勧告302004年)に照らし、締約国に対し、教育機会の提供において差別がないよう確保すること、ならびに、締約国の領域内に居住する子どもが就学および義務教育の修了にさいして障害に直面することのないよう確保することを勧告する。この点に関して、委員会は、また、締約国が、外国人のための多様な学校制度の調査研究や、国の公立学校制度の枠外に設置された代替的な制度が望ましいかどうかの調査研究を行なうよう勧告する。委員会は、締約国に対し、マイノリティ集団が自己の言語を用いた、または自己の言語の指導を受ける充分な機会を提供することを検討すること、および、教育における差別を禁止するユネスコ条約への加入を検討するよう奨励する。

◆子供の権利委員会の勧告
マイノリティまたは先住民族の集団に属する児童
86. アイヌの人々の状況改善のために締約国が講じた措置に留意する一方,委員会は,アイヌ,韓国・朝鮮人,部落出身者やほかのマイノリティの児童が社会的・経済的周縁化を経験し続けていることを懸念する
87. 委員会は,締約国に対し,生活のあらゆる面において民族的少数者に属する児童に対する差別が除去されるための必要な法令又はその他の措置を講じ,条約に規定されたすべてのサービスや支援に等しくアクセスできることを確保するよう要請する。
9. フォローアップ及び広報
フォローアップ
88. 委員会は,締約国に対し,適当な場合には,適切な検討とさらなる行動のため,これらの勧告を,特に,高等裁判所,内閣,国会及び地方自治体の関係者に対し伝達し,勧告が完全に実施されることを確保するためあらゆる適切な手段を講じることを勧告する




⑨政府要請書
                                  2011年1月17日
     直 人 総理大臣 様
枝 野  幸 男 官房長官 様
青 木  一 郎 アイヌ総合政策室長 様



              旭川アイヌ協議会 (会長 川村シンリツ・エオリパック・アイヌ) 
              アイヌ・ウタリ連絡会  (代表 宇梶 静江) 
              東京アイヌ協会  (会長 星野 工) 
              ペウレ・ウタリの会  (会長 石川 洋子) 
              レラの会  (会長 石原 修) 
              原住、アイヌ民族の権利を取り戻すウコチャランケの会 
              (代表 石井ポンペ) 
              アイヌ民族有志 
              国連人種差別撤廃委員会の勧告を実現!実行委員会 
              〈呼びかけ人・団体〉 旭川アイヌ協議会  アイヌ・ラマット実行
              委員会  おんな組いのち    
              小笠原信之(ジャーナリスト)  金澤 壽(全労協 議長)  
              金 時鐘(詩人)  佐高 信(週刊金曜日編集人)  
              辛 淑玉(人材育成コンサルタント)  
              田中優子(週刊金曜日編集人)  
              谷口 滋(元東京都同和教育研究協議会 会長)   
              中山千夏(作家)   
              朴 慶南(エッセイスト) 丸山未来子(おんな組いのち事務局) 


20079月に「先住民族の権利に関する国連宣言」が国連総会で採択され、日本政府も賛成しています。この宣言は、先住民族を他の民族と差別なく扱うこと、即ち自決権(宣言第3条)や「(先住民族の)生得の権利、とりわけ土地、領域および資源に関する自らの権利」の回復を宣言しています。当初はこの宣言に反対したアメリカ合衆国など4カ国も、現在までにこれを受諾して、その主旨に反対する政府はなくなり、その具体的内容の性格とともに国際法規に準じる宣言となっています。

 私達は、現在行われているアイヌ政策の見直しにおいて、この先住民族国連宣言が切り離され、またアイヌの声が十分に届いていないことに強い懸念を感じています。また、後述する昨年3月の国連人種差別撤廃委員会の勧告は同じ懸念に基づいていますが、この勧告が無視されたまま今年3月に予定されているアイヌ政策推進会議の報告でアイヌ政策の見直しが終わり、権利回復は数十年後に・・・となりかねない危機感を感じています。そこで、私達は新たに同勧告の主旨に基づくアイヌ民族の権利回復を協議する審議会の設置を要求して声をあげました。ぜひ私達の声に耳を傾けて、ぜひ、この審議会の設置を実現していただくよう要請する次第です。

先住民族国連宣言の採択を契機に、日本においても衆参両議院において「アイヌ民族を先住民族として認めることを求める決議」が全会一致で採択され、有識者懇談会の設置、そして現在のアイヌ政策推進会議での作業と続いてきました。アイヌウタリは、その作業に対して様々な視点と立場で関わり、また見守ってきました。しかし、そのアイヌ政策の見直し作業において、すでに記したように先住民族国連宣言が切り離され、またアイヌ民族の代表が限定されてきたことで、アイヌの声や願いが十分に受け止められていない懸念を禁じえません。

アイヌ民族は、明治維新による近代天皇制国家成立時にアイヌモシリ(アイヌ民族の住む大地)を「無主の土地」として一方的に奪われて「国境内植民地」とされ、創氏改名、伝統的生業や風習・習慣の禁止、日本語の強要などで民族的権利と生存が奪われ、さらにアイヌ女性への性暴力など植民地化・同化政策が強いられました。こうした植民地化・同化政策は戦後も正されず継続されてきました。これまで日本政府はその加害の歴史を直視せず、謝罪は言うに及ばずアイヌ民族の被害と犠牲に関して一切の調査すら行ってきませんでした。現在のアイヌ民族の抱える諸問題は、こうした歴史に起因する構造的な差別の結果です。先住民族国連宣言は、こうした先住民族に対する植民地支配を「歴史的不正義」と断定し、その奪われた権利の回復を宣言しています。アイヌ政策の見直しは、この国連宣言の基本的なスタンスに則り行われなければなりません。

すでに今年3月には、上記の日本政府のアイヌ政策の見直しに関して、国連人種差別撤廃委員会はその作業内容の審議を行った上で懸念を表明し、「先住民族の権利に関する国連宣言など国際的な公約を吟味し実施することを目的とする3つ目の作業部会の設置を検討すること」、「アイヌの代表を増大させること」やアイヌ民族の権利に関する全国調査、委員会の一般的勧告231997年)を考慮すること、先住民・種族民に関するILO169号条約の批准の検討などを勧告しました。私達は、この勧告の実現を求めますが、とりわけ新たにすべてのアイヌ民族(団体)の代表と対等・平等な立場で先住民族国連宣言に基づく権利回復を協議する審議会の設置を強く求めます。

また同勧告では、在日朝鮮人への暴力的行為、朝鮮学校の無償化排除への懸念と勧告、そして「沖縄の軍事基地の不釣り合いな集中」などの差別も対象になっています。こうした課題は日本の根っこの問題として繋がっており、同じく差別の痛みをもつ当事者として私達も看過できません。速やかな勧告の実現を求めます。

先住民族アイヌの権利回復は、何か新たな権利を求めるものではなく、すでに国際法上すべての民族に保障されるべきもとされている権利を不差別・平等に承認することです。それは累々たる犠牲のもと、同化政策に抗いアイヌ民族の精神と文化を伝承してきた先祖の尊厳の回復であり、私達が心から願うものです。また、この日本においてすべての民族が対等・平等で人間的な信頼関係を切り結ぶ真の人権と民主主義の確立にとって不可欠な課題であり、その実現は日本政府が国際社会において名誉ある地位を得ることに繋がることは必至です。
  
 上述の主旨をご理解の上、先住民族アイヌの権利回復のための審議会の設置、国連人種差別撤廃委員会の勧告の実現に向けて全力をつくしてくださるようお願い致します。





⑧議員要請書 
                                      2011年  月  日

衆議院議員            様
参議院議員            様

              
              旭川アイヌ協議会 (会長 川村シンリツ・エオリパック・アイヌ) 
              アイヌ・ウタリ連絡会  (代表 宇梶 静江) 
              東京アイヌ協会  (会長 星野 工) 
              ペウレ・ウタリの会  (会長 石川 洋子) 
              レラの会  (会長 石原 修) 
              原住、アイヌ民族の権利を取り戻すウコチャランケの会 
              (代表 石井ポンペ) 
              アイヌ民族有志 
              国連人種差別撤廃委員会の勧告を実現!実行委員会 
              〈呼びかけ人・団体〉 旭川アイヌ協議会  アイヌ・ラマット実行
              委員会  おんな組いのち 岡崎享恭(京都産業大学講師)   
              小笠原信之(ジャーナリスト)  金澤 壽(全労協 議長)  
              金 時鐘(詩人)  佐高 信(週刊金曜日編集人)  
              辛 淑玉(人材育成コンサルタント)  
              田中優子(週刊金曜日編集人)  
              谷口 滋(元東京都同和教育研究協議会 会長)   
              ティーター・ジェニファー 中山千夏(作家)   
              朴 慶南(エッセイスト) 丸山未来子(おんな組いのち事務局) 


20079月に「先住民族の権利に関する国連宣言」が国連総会で採択され、日本政府も賛成しています。この宣言は、先住民族を他の民族と差別なく扱うこと、即ち自決権(宣言第3条)や「(先住民族の)生得の権利、とりわけ土地、領域および資源に関する自らの権利」の回復を宣言しています。当初はこの宣言に反対したアメリカ合衆国など4カ国も、現在までにこれを受諾して、その主旨に反対する政府はなくなり、その具体的内容の性格とともに国際法規に準じる宣言となっています。
私達は、現在行われているアイヌ政策の見直しにおいて、この先住民族国連宣言が切り離され、またアイヌの声が十分に届いていないことに強い懸念を感じています。また、後述する昨年3月の国連人種差別撤廃委員会の勧告は同じ懸念に基づいていますが、この勧告が無視されたまま今年3月に予定されているアイヌ政策推進会議の報告でアイヌ政策の見直しが終わり、権利回復は数十年後に・・・となりかねない危機感を感じています。そこで、私達は新たに同勧告の主旨に基づくアイヌ民族の権利回復を協議する審議会の設置を要求して声をあげましたが、その実現に向けて貴殿に協力を要請する次第です。

先住民族国連宣言の採択を契機に、日本においても衆参両議院において「アイヌ民族を先住民族として認めることを求める決議」が全会一致で採択され、有識者懇談会の設置、そして現在のアイヌ政策推進会議での作業と続いてきました。アイヌウタリは、その作業に対して様々な視点と立場で関わり、また見守ってきました。しかし、そのアイヌ政策の見直し作業において、すでに記したように先住民族国連宣言が切り離され、またアイヌ民族の代表が限定されてきたことで、アイヌの声や願いが十分に受け止められていない懸念を禁じえません。

アイヌ民族は、明治維新による近代天皇制国家成立時にアイヌモシリ(アイヌ民族の住む大地)を「無主の土地」として一方的に奪われて「国境内植民地」とされ、創氏改名、伝統的生業や風習・習慣の禁止、日本語の強要などで民族的権利と生存が奪われ、さらにアイヌ女性への性暴力など植民地化・同化政策が強いられました。こうした植民地化・同化政策は戦後も正されず継続されてきました。これまで日本政府はその加害の歴史を直視せず、謝罪は言うに及ばずアイヌ民族の被害と犠牲に関して一切の調査すら行ってきませんでした。現在のアイヌ民族の抱える諸問題は、こうした歴史に起因する構造的な差別の結果です。先住民族国連宣言は、こうした先住民族に対する植民地支配を「歴史的不正義」と断定し、その奪われた権利の回復を宣言しています。アイヌ政策の見直しは、この国連宣言の基本的なスタンスに則り行われなければなりません。

すでに今年3月には、上記の日本政府のアイヌ政策の見直しに関して、国連人種差別撤廃委員会はその作業内容の審議を行った上で懸念を表明し、「先住民族の権利に関する国連宣言など国際的な公約を吟味し実施することを目的とする3つ目の作業部会の設置を検討すること」、「アイヌの代表を増大させること」やアイヌ民族の権利に関する全国調査、委員会の一般的勧告231997年)を考慮すること、先住民・種族民に関するILO169号条約の批准の検討などを勧告しました。私達は、この勧告の実現を求めますが、とりわけ新たにすべてのアイヌ民族(団体)の代表と対等・平等な立場で先住民族国連宣言に基づく権利回復を協議する審議会の設置を強く求めます。

また同勧告では、在日朝鮮人への暴力的行為、朝鮮学校の無償化排除への懸念と勧告、そして「沖縄の軍事基地の不釣り合いな集中」などの差別も対象になっています。こうした課題は日本の根っこの問題として繋がっており、同じく差別の痛みをもつ当事者として私達も看過できません。速やかな勧告の実現を求めます。

先住民族アイヌの権利回復は、何か新たな権利を求めるものではなく、すでに国際法上すべての民族に保障されるべきもとされている権利を不差別・平等に承認することです。それは累々たる犠牲のもと、同化政策に抗いアイヌ民族の精神と文化を伝承してきた先祖の尊厳の回復であり、私達が心から願うものです。また、この日本においてすべての民族が対等・平等で人間的な信頼関係を切り結ぶ真の人権と民主主義の確立にとって不可欠な課題です。

 上述の主旨をご理解の上、先住民族アイヌの権利回復のための審議会の設置、国連人種差別撤廃委員会の勧告の実現に向けて、政府への働きかけに協力して下さるよう切にお願い致します。 




⑦人種差別撤廃委員会への協力要請 Request Letter to CERD 
(English follows Japanese)

                            2010年7月28日
国連人権高等弁務官事務所 人権理事会及び条約部 
事務員 ガブリエーラ ハブトム
国連人権高等弁務官事務所 人種差別撤廃委員会 
事務官秘書 シンドゥー ソディール
                            旭川アイヌ協議会 
                            アイヌ・ラマット実行委員会

先住民族アイヌの権利回復に関する人種差別撤廃委員会への協力要請

多忙な中、突然に先住民族アイヌの権利回復に関わる協力要請を行うことになり恐縮しています。
私達、旭川アイヌ協議会はチウペツコタン(旭川)の先住民族アイヌで組織された民族団体であり(社団法人・北海道アイヌ協会を除く最大の組織)、アイヌ民族の伝統文化の継承や権利回復を目的に活動しており、またアイヌ・ラマット実行委員会はアイヌ民族と日本人労働者・市民で構成され、アイヌ民族の権利回復に連帯することを目的に活動しています。

さて、現在進められている日本政府によるアイヌ政策の手直しについて、人種差別撤廃委員会は今年3月16日に「総括所見」を明らかにして「有識者懇談会や各種の協議体におけるアイヌの人々の参画が不十分なこと」「先住民族の権利に関する国連宣言の実施に向けて、これまで限られた進展しか見られないこと」(C、懸念と勧告20)などの懸念を表明されました。
ここに指摘された日本政府の姿勢について、私達も同じく強い懸念をもっておりその姿勢を正すべく別紙のようにアイヌ・日本人・在日朝鮮人による呼びかけで「先住民族アイヌの権利回復を求める団体・個人署名」などに取り組んできました。署名は「①私達は、近代天皇制国家が先住民族アイヌの生得の権利である土地・資源・領域を一方的に奪い、植民地化・同化政策を行った歴史的責任を認め、「先住民族の権利に関する国際連合宣言」(2007年採択)に明記された先住権・自決権の権利回復を行うことを求めます。②上記1に合意の上、日本政府がすべてのアイヌ民族(団体)の代表者と対等・平等な立場でチャランケ(話し合い)を行い、アイヌ政策の見直しを行うことを求めます。」の2点を求め、これは上記の人種差別撤廃委員会の問題意識とその本質において重なり合うと考えています。

ところが日本政府(内閣官房アイヌ総合政策室)は、私達と署名呼びかけ人が国会議員を介して「今年6月7日に署名提出とチャランケ(話し合い)に対応すること」と申し入れた事に対してかたくなに署名の受理すら拒みました。最終的には6月7日に605労組・団体、16072筆の署名を提出しましたが、チャランケ(話し合い)はいまも拒まれています。
まだ微力ですが、これほどアイヌ民族の権利回復に日本の労働組合・市民団体などが連帯の意志を示したことはかつてないことだと思います。日本政府はその声を封殺しようとしています。しかし署名は現在も拡大し、7月19日現在で705労組・団体、20787筆が集約されています。これは旭川アイヌ協議会が日本政府・日本社会の厳しいアイヌ民族差別に対峙して、累々たる先祖の犠牲に思いをはせて歴史の真実を直視することを訴え、「恩恵」でも「保護」でもない先住民族アイヌの誇りをもって権利回復を求める決意を示していることへの共感がこの連帯を呼び起こしました。
日本政府は私達の署名提出とチャランケ(話し合い)を拒絶する理由として、①アイヌ政策の手直しは有識者懇談会の報告書に基づいて行っている(それ以外の例えば国連宣言による権利回復などの要求は対象外)②アイヌの窓口はそれに協力している北海道アイヌ協会に一本化している③上記の①②は、アイヌに関わる議員連盟の確認でもあるとの3点をあげました。

しかし上記①に関しては、日本政府がアイヌ政策の手直しの前提にしている有識者懇談会報告書は、先住民族アイヌに対する近代天皇制国家の植民地支配(歴史的不正義)を否定し、「先住民族の権利に関する国際連合宣言」を参照するとしながらも、「最高法規を踏まえるのは当然」として集団的権利を明記していない憲法を口実に国連宣言に明記された権利回復を事実上否定しています。こうした先住民族アイヌの権利回復の歴史的根拠を否定し、その権利回復を拒む報告書への合意を前提とするアイヌ政策の見直しを私達は認めることはできません。
また上記②に関しては、北海道アイヌ協会はアイヌ民族団体のうちの一つであり、他のアイヌ民族団体が同協会を民族の代表と承認したことはありません。とりわけ旭川アイヌに関しては、その植民地支配において北海道旧土人保護法とは異なる旭川市旧土人保護地処分法が制定されていたように支配の歴史的経緯が他のアイヌと異なり給与地問題など旭川アイヌ以外に交渉当事者の権利はありません。アメリカでは1つの部族が1つのnationと扱われていますが、国連宣言第19条の規定からも旭川アイヌ協議会がアイヌ政策の見直しに関与する権利があることは明白です。その権利を奪うことはできません。
上記③の理由に関しては、アイヌ民族の国会議員は皆無であり、支配国家の議員が一方的に先住民族になりかわってその権利を奪う事ができないことは言うには及びません。さらにこの議員連盟は昨年の日本における政権交代後にはまったく活動もおこなわれておらず、会長の衆議院選挙落選後にその役員体制も決まっていません。
こうした日本政府の姿勢は、アイヌ民族の代表者の参加を拡大し、国連宣言や国際公約に基づく権利回復を吟味し実施する旨の3月16日の人種差別撤廃委員会の勧告をも門前払いすることも意味します。

根本的な問題として、現在も日本政府はアイヌ民族を「先住民族」として認めるとしながら、国連宣言における先住民族とは認めていません。また私達の2008年6月の政府への申し入れの際に、内閣官房アイヌ総合政策室(現在)の柘植参事官は「有識者懇談会は国連宣言を問うていない」と明言しています。私達は先住民族アイヌの権利回復をかちとることは、単に日本国家とアイヌ民族の間の問題ではなく、世界に普遍的な人権と正義をうちたて、あらゆる民族が対等・平等で人間的な信頼関係を切り結ぶ未来を切り開くことに連なると考えていますが、日本政府のこうした姿勢は国連・人権理事国である責任においても許されないと思います。
日本政府は、今回のアイヌ政策の手直しにおいてもたった1人のアイヌが参加し、アイヌへの植民地支配を否定した有識者懇談会報告書への合意を前提とし、それを肯定的に受け入れていない旭川アイヌ協議会等とは署名の受理も拒む姿勢をとっています。この事は、日本政府がアイヌ民族に対する正しい歴史認識と先住民族アイヌの権利回復の確立を阻む意図をもっているとしか考えようがありません。 
こうした日本政府の一方的な姿勢が改まらないかぎり先住民族アイヌの権利回復は確立しないことは明白で、私達が人種差別撤廃条約委員会への報告と協力を要請する次第です。私達の取り組みへのご理解とともに、ぜひ日本政府がすべてのアイヌ民族団体の代表者の声に耳を傾け、対等・平等な立場でチャランケを行い、国連宣言に基づくアイヌ政策の見直しに臨むべく働きかけをお願いいたします。 


July 28th 2010

Gabriella Habtom
Human Rights Officer and Secretary of the Committee on the Elimination of Racial Discrimination Human Rights Treaties Division Office of the High Commissioner for Human Rights
Sindu Thodiyil
Administrative Assistant Secretariat of the Committee on the Elimination of Racial Discrimination Human Rights Treaties Division Office of the High Commissioner for Human Right
Asahikawa Ainu Council
Ainu Ramat Organization

Request for cooperation from the Committee on the Elimination of Racial Discrimination on the Restoration of the Rights of the Indigenous Ainu People

We apologize for our sudden request for cooperation in our struggles to restore the rights of the indigenous Ainu of Japan despite your busy schedules. We sincerely appreciate all of the work that you have done to support the struggle of the Ainu people of Japan to realize their inherent indigenous rights.

The Asahikawa Ainu Council and Ainu Ramat Organization have come together to ask CERD in this letter to encourage the Japanese government to be more inclusive in their deliberations over Ainu policy. The Asahikawa Ainu Council, is an organization of indigenous Ainu of Ciwpet Kotan (current-day, Asahikawa in Hokkaido) and our activities include the transmission of traditional Ainu culture and working for the restoration of our rights. It is the largest Ainu organization next to the incorporated Hokkaido Ainu Association (HAA). Ainu Ramat Organization is comprised of Ainu people, Japanese workers and citizens with the aim to join together to support the restoration of the Ainu people’s rights.

On March 16th, 2010, the Committee on the Elimination of Racial Discrimination (CERD) released its concluding observations on the Japanese government’s recent changes concerning Ainu policies. In Section C (Concerns and recommendations), Item 20 discusses CERD’s concerns about “the insufficient representation of Ainu people in consultation fora and in the Advisory Panel of Eminent Persons” and “the limited progress so far towards implementing the UN Declaration on the Rights of Indigenous Peoples”.  

We, too, have strong concerns about the attitude of the Japanese government pointed out in CERD’s observations and we have been working together to address this by gathering support for the attached petition, “Petition for the Restoration of the Rights of the Indigenous Ainu People,” called upon by Ainu, Japanese and Zainichi Koreans in Japan. We succeeded in collecting 16,702 individual signatures and 605 organizational sponsors as of June 7th, 2010. The petition is calling for the following two points:

1.We urge the government to recognize the historical responsibility of the modern Japanese Imperial state in forcibly robbing the Ainu’s inherent rights to land, resources and territory, and to implement the restoration of indigenous rights and self- determination rights as stipulated in the United Nations Declaration on the Rights of Indigenous Peoples (adopted in 2007).
2. Upon agreement of the statement above, we urge the government to engage in charanke (dialogue) on equal footing with representatives from all Ainu organizations and conduct a review of Ainu policies.

We believe that these two points share common ground with CERD’s  concerns.

However, the Japanese government (Ainu General Affairs Office of the Cabinet) declines our offers to participate in charanke (dialogue) and even refused to receive our petition when we, and other supporters, approached them through national parliament members. With persistence we were able to physically hand the petition over to a member of the Ainu General Affairs Office. However, the office continues to refuse to have charanke with our organizations.

This petition marks the first time Japanese labor unions and civil organizations have come together to express their solidarity for the restoration of the Ainu people’s rights. Although the Japanese government is trying to suppress these voices, the amount of support for the petition continues to grow and as of July 19th, 2010, an additional 95 organizations and 485 individuals have added their names to the petition, making the total amount of signatures reach 700 organizations and 20,787 individuals. This enormous solidarity is born out of the empathy for the Asahikawa Ainu Council who, with their indigenous Ainu pride and remembrance of the repeated sacrifices of their ancestors who faced harsh discrimination from the Japanese government and Japanese society, have been showing determination to restore their true rights while rejecting tactics which simply offer of “protection” or “welfare” from the government.

The Ainu General Affairs Office legitimizes their rejection of our petition and refusal to engage in charanke on the following grounds.  It insists that current policy deliberations of the Advisory Panel of Eminent Persons are sufficient, that HAA is the only official channel to the government for the Ainu people. Furthermore, they justify these arguments by claiming that the parliamentary group on Ainu issues is in agreement with them on the matter.

Despite the Japanese government’s ratification of UNDRIP, the Advisory Panel of Eminent Persons, in its panel report, does not acknowledge the restoration of rights that UNDRIP guarantees, thereby insisting that its current deliberation process on Ainu policy is sufficient.  While making references to UNDRIP, the report refrains from acknowledging the responsibility of the modern Japanese Imperial State’s colonial domination and other historical injustices against the indigenous Ainu. Furthermore, it argues that the notion of collective rights is at odds with the Japanese Constitution. Since the panel (which only includes one Ainu person in its membership) views the Constitution as the supreme law of Japan through which the rights of Japanese people are decided, it argues that it can reject policies that encourage the realization of indigenous rights. The Asahikawa Ainu Association and Ramat Ainu Association cannot accept Ainu policy reform that denies the historical basis for the restoration of Ainu people’s inherent rights.

On the second point, the Hokkaido Ainu Association is only one of many Ainu organizations and other Ainu organizations have never come to an agreement that this association can represent all Ainu people. Therefore, the legitimacy of mandating that only HAA can represent the Ainu people must be reconsidered and other organizations must be given opportunities to have their voices heard in policy deliberations. In particular, the Asahikawa Ainu have experienced a different history of colonial domination. For instance, the local government imposed a different law in terms of land distribution on the Asahikawa Ainu, the Asahikawa City Former Native Protected Land Disposition Act, in addition to the overarching Hokkaido Former Aborigines Protection Law. Due to the different policies born out of these laws, et cetera, the Asahikawa Ainu are in a unique position to make reference to these different policies to reclaim their rights.   Similar to the Asahikawa Ainu Council, there are many other Ainu organizations and Ainu people that feel their needs are not completely reflected by the work of HAA, but we are not at liberty to represent their voices here. In the United States, each tribe is treated as a separate nation and a similar situation must be created, as discussed in UNDRIP Article 19, that ensures the involvement of the Asahikawa Ainu Council as a body in the reform process of Ainu policy. Nobody can take away that right.     

Finally, we strongly believe the decision of the parliamentary group on Ainu affairs to support the institutional exclusion being committed by the Ainu General Affair’s Office is illegitimate. First of all, there are no Ainu members of parliament, which means that Ainu voices are not directly represented in the parliamentary group.  Also, it goes without saying that the parliamentary members of a dominant nation have no right to take away the rights of indigenous peoples to submit their petitions or engage in dialogue in issues related to their own lives.  Moreover, this parliamentary group on Ainu issues is inactive and has not recorded activity since the last year’s administration change. Their activities have been further stagnated by a lack of leadership.  Since the head of the group did not receive a seat in the last upper house election, they have still neglected to decide on how the group will be managed under the new administration.

Overall, this attitude of the Japanese government shows that it has decided to look the other way when it comes to the March 16th recommendations based on the UNDRIP and other international agreements made by CERD (who, unlike the Advisory panel, have made strident efforts to expand the number of Ainu representatives directly participating in consultation proceedings).

Proof of our claim lies in a statement made by, Mr. Tsuge, former Counsellor for Cabinet Ainu General Office when we visited them in June 2008 where he clearly declared “the Advisory Panel of Eminent Persons is not concerned with UNDRIP.” The roots of the problems we are facing is premised on how government, while recognizing the Ainu as “indigenous people of Japan”, does not intend to realize the mandates of UNDRIP.

The struggle to restore the rights of the indigenous Ainu is not just an issue between the Japanese government and the Ainu people, but is related to the entire world as our success would illuminate the achievement of universal human rights and justice legislation and open the world up to a future where all peoples have equal, humanistic, trusting relationships. Considering the Japanese government’s position as a member of the UN Human Rights Council, its attitude of denial cannot be permitted to continue.

In conclusion, the deprivation of the Ainu people’s rights must not be allowed to continue. The Office of Ainu Affairs maintains a stance that they are not interested in receiving petitions or having chranke (dialogue) with organizations that express their disagreement with the reports drafted by the Advisory Panel of Eminent Persons, such as the Asahikawa Ainu Council. Furthermore, this report on which the government premises its actions towards the Ainu people, drafted by a panel with only one Ainu representative, denies the colonial domination over the Ainu people in order to halt efforts to restore indigenous Ainu rights.

It is clear that without correcting the Japanese government’s unbending posture on Ainu rights, the restoration of the indigenous Ainu’s rights will not be realized.  Therefore, we are reporting this to CERD and hoping for CERD’s further support in this matter. We hope CERD can understand the efforts we are making and will advise the Japanese government to listen to representatives from all Ainu organizations, engage in charanke (dialogue) on equal footing with all Ainu organizations that wish to participate, and conduct a more inclusive review of Ainu policy.  

Thank you for your time and consideration.




⑥北海道新聞記事2

アイヌ政策に疑問 市民2団体が政府に公開質問状08/13 07:05

アイヌ民族の権利回復に取り組む旭川アイヌ協議会の川村兼一会長と、東京の市民団体アイヌ・ラマット実行委の出原昌志共同代表ら6人が12日、東京・永田町の内閣府を訪れ、アイヌ政策に関する公開質問状を政府担当者に手渡した。

「アイヌ政策のあり方に関する有識者懇談会」(座長・佐藤幸治京大名誉教授)が7月29日に提出した報告書を踏まえ、政府の考えをただしたもので、《1》アイヌ民族の「苦難の歴史」や「歴史的不正義」が十分に調査できたか《2》先住民族と認めながら「先住権」「自決権」を認めない根拠は何か-など11項目。10月上旬をめどに回答を求めている。

2団体は6月25日にも、アイヌ民族法制定などを政府に申し入れており、今回は2回目となる。



⑤北海道新聞記事1

アイヌ民族法制定を 旭川の協議会政府に申し入れ(06/26 07:11

旭川アイヌ協議会などは25日、アイヌ民族の先住権・自決権に基づく施策を保障するアイヌ民族法の制定などを政府に申し入れた。
 
同協議会の川村兼一会長、和人とアイヌ民族で構成し、民族の権利回復に取り組むアイヌ・ラマット実行委(東京)の出原昌志共同代表らが東京・赤坂の内閣官房アイヌ政策推進室で、担当者に申し入れ書を手渡した。
 
政府のアイヌ政策のあり方に関する有識者懇談会の議論が大詰めを迎える中、政策に自分たちの意見を反映させる狙い。
 
このほか、《1》同化政策などに対する政府と天皇の謝罪《2》土地、資源などを奪ったことへの賠償《3》国会と地方議会の民族特別議席《4》アイヌ語を中心にアイヌ文化・歴史を学べる教育機関設置-などを求めている。



以下の政府への文書(①,②,③)は、政権交代後、2009年10月5日付で内閣総理大臣・鳩山 由起夫、内閣官房長官・平 野 博 文宛てで再提出しています(④は初提出)。


④追加申し入れ  
2009年10月5日  
内閣総理大臣 鳩山由起夫様
内閣官房長官 平野 博様             
                                            
                                           旭川アイヌ協議会
                                           アイヌ・ラマット実行委員会  

旭川アイヌが歴史的な植民地支配・同化政策によって受けてきた苦難と差別の象徴として「共有財産」の問題があります。その「共有財産」の規定のある「北海道旧土人保護法」は「アイヌ文化振興並びにアイヌの伝統等に関する知識の普及及び啓発に関する法律」(1997年制定)の成立・施行とともに廃止されましたが、旭川では「共有財産」は、「北海道旧土人保護法」ではなく独自に「旭川市旧土人保護地処分法」に規定されていました。その法律の成立と運用の経過は、旭川の先住民族アイヌの生存をかけた闘い・アイヌ民族に対する植民地支配・同化政策との闘いそのものであり、日本政府に謙虚に省みて調査していただきたい歴史です。  

「北海道旧土人保護法」が成立し、アイヌ民族に1万5千坪の「給与地」が無償下付されましたが、旭川だけは同法に従わない北海道庁の一方的な判断で下付されず、私達の先祖による3次にわたる土地闘争が展開されました。とりわけ第2次の「近文アイヌ地紛争」、そして1932年には「アイヌ地をかえせ」との要求によって近文アイヌ地はアイヌ民族の手に返ることになり「旭川市旧土人保護地処分法」が成立しました。しかし同法によって無償下付されたのは近文アイヌ地140町歩の内1戸1町歩(3千坪)だけが「給与予定地」として50戸に下付され、残りは「共有地」として北海道庁の恣意的な運用で管理され、日本の敗戦まで、寄付などと称して処分されてきました。また、敗戦後の農地改革は、さらに「共有地」をアイヌ民族の手から奪いアイヌ以外の日本人に配分されました。  

こうした経過の中で、アイヌの手に戻るべき「共有地」は旭川師範学校(現北海道教育大学旭川分校)に1万5千坪、近文小学校に6千9百坪、道路用地に1千5坪、大有小学校に5千3百5十坪、教育大付属小学校に5千9百8十坪、この他道路用地として9百坪、鉄道用地として1千5百坪などいずれも無料で寄付されました。また戦時中に同用地内に軍需工場が作られ、戦後は同工場が道立林産試験場となり、1956年に道庁はこの土地を坪5百円という低価格で買い取っています。「北海道旧土人保護法」第10条では「北海道庁長官は内務大臣の許可を経て共有者の利益の為に共有財産の処分を為し又必要と認むるときは其の分割を拒むことを得」とありますが、その「許可」ならびに「共有者の利益の為に」なったとする具体的な証拠を明示してください。  

なお北海道庁のアイヌ政策審議室は、こうした経緯に対する川村シンリツ・エオリパック・アイヌさんらの調査に対して、「昭和6年頃に各戸に六万円を支払って補償している」との回答を行っていますが、旭川アイヌの当事者でそうした金員を受け取った者はいません。政府として、この共有財産の処分の調査をおこなうことを求めます。  

また私達は、こうした「共有財産」の成り立ち・処分そのものが先住民族アイヌに対する植民地支配・同化政策に起因するものであり、また廃止されましたが「北海道旧土人保護法」に照らしても不法・不当な処分であり、その歴史的責任をなきものにすることはできないと考えます。現在のアイヌ政策の見直しにおいて、アイヌ民族と日本政府が対等・平等な信頼関係をつくる出発点としてもその歴史の真実を明らかにして、当事者である旭川アイヌの49戸に1万2千坪を返還、あるいはその賠償をおこなうことを求めます。 



③公開質問状  
2009年8月12日  
内閣総理大臣 麻生太郎様  
内閣官房長官 河村建夫様
                                           
                                           旭川アイヌ協議会  
                                           アイヌ・ラマット実行委員会  

さる6月25日、私達は、政府(アイヌ政策推進室)に対して「決議並びに申入れ」を提出しチャランケ(話し合い)を行いました。その後、7月29日にアイヌ政策のあり方に関する有識者懇談会(以下、有識者懇談会)が「アイヌ政策の新たな理念および具体的な政策のあり方」をまとめた報告書を河村内閣官房長官に提出し、それを受けて、政府は8月中に内閣官房にアイヌ政策を統括する窓口機関を設置する方針を固め、その具体化の検討を進めています。 

河村官房長官は、この報告書を受け取る際に「政府としてはアイヌの方々の苦難の歴史を厳粛に受け止めながら、報告書の実現に向けて取り組んでいきたい」とあいさつを行っています。しかし、この報告書は、民族自決権や土地・資源の権利回復を明記した「先住民族の権利に関する国際連合宣言」を参照するとしながらも、先住民族アイヌに対する近代天皇制国家の「歴史的不正義」(植民地支配)に対する謝罪や賠償問題には一切触れず、「最高法規を踏まえるのは当然」として集団的権利を明記していない憲法を口実に、先住権・自決権に基づく権利回復には事実上扉を閉ざしています。

すでに私達とのチャランケで、内閣官房アイヌ政策推進室の柘植参事官は「有識者懇談会は国連宣言を問うていない」と明言していましたが、こうした報告書の内容を私達は受け入れることができません。  

私達は、「アイヌ民族の苦難の歴史」とはアイヌ民族の先祖の累々たる犠牲そのものであり、民族の尊厳にかけてそのことに対する歴史的責任を不問に付すわけにはいきません。また先住権・自決権の権利回復は、先住民族アイヌが奪われた権利を取り戻し主体的かつ自由に自らの未来を切り開く最低限の権利であり、日本政府と対等・平等であることを保障するもので放棄することはできません。 

この報告書を政府がどのように受け止め、今後、どのようなアイヌ政策の「見直し」を行おうとしているのか、とりわけその歴史認識と先住権・自決権に関わって公開質問状を提出して回答を求める次第です。下記の質問に対して、誠実かつ真摯に、そして具体的に回答することを要請します。  

記   
 
*先住民族アイヌの「苦難の歴史」「歴史的不正義」に対する調査は十分になされたのか  

1.有識者懇談会の委員の構成に関して、当事者であるアイヌ民族からは半数はアイヌ民族を選任すべき等の強い声がありました。にもかかわらず、当初、政府は前回の有識者懇談会同様にアイヌ民族の委員を予定せず、最終的にアイヌ民族を1人選任し、日本人(和人)委員は7人でした。政府がアイヌ民族の委員の選任に消極的だったのはなぜですか、その理由をお答えください。  
 また報告書の作成期間が1年間と短期であり、中身もアイヌ民族の通史を記述しながらたった42頁にしかすぎず、きわめてずさんなものとなっています。この報告書で、政府はアイヌ民族の140年にわたる「苦難の歴史」が十分に調査できたとお考えですか、見解を明らかにしてください。

*先住民族アイヌの歴史と文化に関して正しい歴史認識が日本人の共通認識とならなかったのは、政府の責任ではないのか  

2.報告書は、「これまでアイヌの歴史や文化については、日本国民共通の知識とはなってこなかった」(2頁)と記述し、不当にもその理由について「アイヌの人々が圧倒的に少数であったこと」「文化的相違が一方の目からは野卑陋習(悪い習慣)とみなされ、その享受者は野蛮な存在であり、その文化の価値は低いものとみなされたことが背景事情として考えられる。」(同頁)などとあげています。  
 ここの「文化的相違」に関する差別的記述は、国連宣言においても「国民的出身又は人種、宗教、種族若しくは文化の違いに基づく民族又は個人の優越性を基礎とし、又は主張するすべての理論、政策及び慣行が、人種差別的であり、科学的に誤りであり、法的に無効であり、道義的に非難されるべきであり、かつ、社会的に不正であることを確認し、・・・」と指弾されています。そして、すでに私達はこうした偏見・差別思想を作りだしたのは「優勝劣敗の差別思想に基づいてアイヌ民族を『旧土人』と蔑称し、『保護』の名のもとに同化政策が推し進められ、単一民族国家観(民族的優越感)による皇民化教育が日本人に徹底されたことに起因しています」(「決議並びに申入れ」09年6月25日付)と指摘してきました。  
 こうした先住民族アイヌに対する典型的な民族的偏見・差別思想を、客観的な「背景事情」として無批判に記述できる有識者懇談会の無自覚さは指弾されなければなりません。それと同時に現在、アイヌ民族の歴史と文化に対する正しい認識が日本人共通のものにならなかった最も重大な責任は、戦後も1991年まで国連においてさえ「完全に同化している」としてアイヌ民族の存在と民族性を徹底して否定してきた政府の政策・単一民族国家観にあると考えます。何故ならば、そうした姿勢は中曽根首相(当時)の「単一民族国家発言」、森首相(当時)の「神の国」発言等、現在に至る政府首脳の度重なる差別発言に端的に現れているからです。  
 また、報告書は「そうした条件下にあっても、アイヌの歴史と文化を我が国の歴史と文化の中で確実に把握し、客観的に記述することは日本の多文化社会性を理解する上で肝要である。」(2頁)と記述し、「アイヌの歴史と文化」を「我が国の歴史と文化」であるかのように記述して、その独立した民族性を否定しています。これは同化政策そのものと考えます。  
 私達は、上記の政府のありように対する真摯な反省に基づく歴史的検証の上でしか、アイヌ民族の歴史と文化に対する正しい認識を日本人の共通認識にする政策を進めることはできないと考えます。  
 政府の責任に対する上記の指摘に対して見解を明らかにすることを求めます。また、この有識者懇談会の報告書の差別的記述についての政府の見解を求めます。  

*政府はアイヌ民族に対する歴史的経緯を植民地支配と認めているのか 

3.アイヌモシリの植民地化について、報告書は「明治2年(1869)年、蝦夷地一円は北海道と改称され、・・・国郡制が導入され、・・・明治政府の統治下に置かれる。・・・内国化が図られ、大規模な和人の移住による北海道開拓が進められることになった。」(10頁)と記述しています。  この記述において、アイヌ民族の意向などについて記述がないのは不可解ですが、どのような理由からですか。私達は、この歴史的経緯においてアイヌ民族との交渉や同意は一切なかったと考えますが、政府の見解を明らかにしてください。  
 また、こうした過程は、世界史的にみれば明らかに「侵略」であり「植民地化」であり「歴史的不正義」であり、国連の先住民族宣言にいう「植民地化とその土地、領域および資源の収奪」だと考えられます。政府は植民地支配と認識しているか否か、見解を明らかにすることを求めます。  

4.先住民族の先住権・自決権を無視した国境画定のための日露交渉の結果は、「アイヌの人々の意にかかわらず行われ、北海道はもとより千島や樺太に住む人々の生活に直接影響するものであった」(10頁)とありますが、この「千島」「樺太」のアイヌの強制移住に対する、近代天皇制国家の歴史的国家責任(謝罪・賠償等)に関して見解を明らかにすることを求めます。  

5.アイヌ民族の歴史記述と言いながら、「大正」期以降の歴史記述、とりわけ第2次大戦期及び戦後の記述がないのはなぜですか、政府の立場からその理由を明らかにしてください。アイヌ民族に対する戦争動員・同化政策など、まさに現在につながる政府の歴史的かつ直接的な責任が問われる重大な責任が含まれているはずです。

*「法的には等しく国民」との主張は、先住民族アイヌに対する植民地支配・同化政策の歴史的責任をかき消す!

6.今回の報告では、『国の政策として近代化を進めた結果、アイヌ文化に深刻な打撃を与えた』『国は文化の復興に配慮すべき強い責任がある』と、国の責任について触れたかのような記述があります。ところが報告書の歴史認識は、『法的には等しく国民でありながら差別され、貧窮を余儀なくされた』(08年6月6日、国会決議)といった前提に基づくもので、近代においてあたかもアイヌ民族と日本人が諸権利において対等であったかのように扱い、植民地支配の事実は『近代化』という言葉で歴史の自然な流れのようにすり替えられ、国の歴史的責任はかき消されています。   
 例えばアイヌモシリを『無主の地』として土地や資源などを奪ったことは、『(アイヌ民族に)近代的な意味での土地所有の観念がなかったこと、文字を理解する人はごく少数であった』ためとされ、日本政府の責任を不問に付しまるで近代化に適応できなかったアイヌ民族の『自己責任』であるかのように描かれています。  
 また『アイヌ語についても禁止した訳ではなかったが、文字も含めて日本語が推奨された。』とアイヌ語を否定し日本語を強制したことの責任を回避しています。上記の『文化の復興』に対する国の責任が、『配慮すべき』という文言を挿入して巧妙に回避されているのはそうした歴史認識のゆえです。」(「声明」09年8月2日 旭川アイヌ協議会 アイヌ・ラマット実行委員会、一部加筆)  
 上記の「国の政策として近代化を進めた」ことは、アイヌ民族にとっては植民地政策の遂行であったと考えられますが、植民地支配であったか否かその歴史認識について政府の見解を明らかにすることを求めます。そして政府は、今回、「アイヌ文化」に限って「深刻な打撃を与えた」としていますが、なぜ「文化」に限ったのかその理由を明らかにしてください。  
 また政府が土地や資源(漁業権等)などの権利回復を棚上げしている理由を明確にお答えください。報告書は「アイヌ語についても禁止した訳ではなかった」と記述していますが、アイヌ民族の社会・経済・政治体制丸ごとを支配下においてその独立を奪い、日本語や創氏改名を強制し、伝統的生業や民族的な風習・慣習を禁止するなど、アイヌ民族の日本人化を強制したことによるアイヌ民族の被害と天皇及び政府の加害責任―歴史的責任についてどのように認識しているのか、具体的にお答えください。  

7.上記のように、この報告書に貫かれている「侵略者、収奪者である日本人(和人)」(加害者)と「被侵略者、被収奪者であるアイヌ民族」(被害者)をあたかも同列、同等の権利・義務関係を有する「国民」であるかのように扱い、記述することは、歴史の真実を隠蔽するものです。私達のこうした認識に関して、政府の見解を明らかにすることを求めます。  
 何故ならば、真実を直視しない歴史の記述からは反省も謝罪も賠償も生まれず、真の意味での「アイヌ政策」にはならないと考えられるからです。  
 また、こうした、先住民族アイヌを「国民」一般に封じ込めて、独立した民族として認めないことは単一民族国家観の焼き直しそのものだと私達は考えます。この点についても、政府の見解を明らかにすることを求めます。  

*アイヌ民族の遺骨の盗掘と収集という歴史的犯罪の真実の解明と返還、謝罪、慰霊、賠償について 

  8.日本の人類学会は、戦前において単一民族国家観を根拠づけるべく、社会進化論や形質人類学を動員して、アイヌ民族を近代化に適応できない優勝劣敗の生存競争に敗れた「滅びゆく民族」と貶(おとし)めてきました。そのために、時には官憲も動員してアイヌ民族の墳墓を荒らし、「国策研究」としてその遺骨と副葬品を奪ってきました。そうした差別思想と遺骨の盗掘・収集という犯罪行為は、戦後においても引き継がれてきました。  
 報告書には「現在も数か所の大学等に研究資料等としてアイヌの人骨が保管されているが、それらの中には、発掘・収集時にアイヌの人々の意に関わらず収集されたものも含まれていると見られている」(16頁)と記述されています。その人骨とは遺骨であり、個々について「発掘・収集」のその歴史的犯罪の経緯を明らかにし、その犯罪の責任を徹底して追及し、謝罪と賠償が行われなくてはなりません。また、現在もそうした遺骨を研究材料として扱う、アイヌ民族の先祖の尊厳を踏みにじり侮辱する行為はただちに止めさせなければなりません。  
 現時点で、政府の把握している「数か所の大学等」を具体的に明らかにし、アイヌ民族の確認の下にその歴史的犯罪の真相を明らかにするべきだと考えます。また遺骨をそれぞれの故郷に返還して、その地に納骨堂を政府・当該大学の責任で建設し、謝罪、慰霊、賠償すべきだと思いますが、政府の見解を明らかにしてください。           

*先住民族と認めるとしながら、先住権・自決権を認めない根拠はなにか 

9.先住民族アイヌの先住権・自決権に関して、有識者懇談会は「特別議席の付与」に関してのみ検討を行っていますが、「国会議員を全国民の代表とする憲法の規定等に抵触すると考えられることから、実施のためには憲法改正が必要となろう。特別議席以外の政治参画の可能性については、・・・中長期的課題であり」と、集団的権利を明記していない憲法を盾に否定しています。  
 上記7、で指摘したように、アイヌ民族は日本の侵略により「日本国民」であることを強いられた被害者です。そうしたアイヌ民族を侵略者の都合で「国民」一般として扱い、先住権・自決権を否定することは「歴史的不正義」への居直りに他なりません。「特別議席の付与」に関してのみ検討した理由、また土地・資源等の権利回復も含めて政府の先住民族アイヌの先住権・自決権を認めない根拠を明らかにしてください。  
 また政府は、国連宣言を参照するとしていますが、施策に関わって参照した条項を具体的に明らかにしてください。また適用できないと考えている条項を具体的に明らかにしてください。  

10.新聞報道によると「懇談会の後継となる審議機関は、政府が秋にも発足させる」(北海道新聞09年7月30日)との方針を受けて、「アイヌ民族側には『審議機関こそが勝負』と先住権を含む議論を期待する声が根強く残る」ようですが、「政府側は『報告書がベース』との立場」(同紙)を盾に、先住権・自決権については、あらかじめ議論に上せない姿勢を示唆しています。  
 政府は、今秋に発足させる審議機関でアイヌ民族の先住権・自決権に基づく権利回復、具体的施策を検討することを考えているのか否か、見解を明らかにすることを求めます。

11.有識者懇談会では、生活支援に関して北海道で行われているアイヌ民族に対する福祉対策を国の責任で全国化することが検討され、具体的には奨学金の検討が始まっているようです。 
   しかし、アイヌ民族の「貧窮」は歴史的な植民地支配に起因する構造的差別の結果であり、そうした彌縫策(びほうさく)ではなく、その原因を全般的な先住民族政策として取り除かなければ問題は解決しないと考えます。政府の見解を明らかにすることを求めます。          



②声 明
2009年8月2日                                            
                                          旭川アイヌ協議会  
                                          アイヌ・ラマット実行委員会  

さる7月29日、「アイヌ政策のあり方に関する有識者懇談会」は「アイヌ政策の新たな理念および具体的な政策のあり方」をまとめた報告書を内閣官房長官に提出しました。  

それを受けて、政府は8月中に内閣官房にアイヌ民族政策を統括する窓口機関を設置する方針を固め、その具体化の検討を開始しました。そうした動きについて「140年待ち望んだ光」(読売)「アイヌ 新時代へ」(毎日)などとの肯定的な評価がマスコミをにぎわせています。

しかし報告は、政治的自決権や土地・資源の権利回復等を明記した「先住民族の権利に関する国際連合宣言」を参照するとしながらも、先住民族アイヌに対する近代天皇制国家の「歴史的不正義」(植民地支配)に対する謝罪や賠償問題には一切触れず、「最高法規を踏まえるのは当然」として集団的権利を明記していない憲法を口実に、先住権・自決権に基づく権利回復には事実上扉を閉ざしています。   

そのため「懇談会の後継となる審議機関は、政府が秋にも発足させる」(北海道新聞09年7月30日)との方針を受けて「アイヌ民族側には『審議機関こそが勝負』と先住権を含む議論を期待する声が根強く残る」ようですが、「政府側は『報告書がベース』との立場」(同紙)を盾に、先住権・自決権については、あらかじめ議論に上せない姿勢を示唆しています。  

私達は、こうした「アイヌ政策の新たな理念および具体的な政策のあり方」を受け入れることはできません。  

今回の報告では、「国の政策として近代化を進めた結果、アイヌ文化に深刻な打撃を与えた」「国は文化の復興に配慮すべき強い責任がある」と、国の責任について触れたかのような記述があります。ところが報告書の歴史認識は、「法的には等しく国民でありながら差別され、貧窮を余儀なくされた」(08年6月6日、国会決議)といった前提に基づくもので、近代においてあたかもアイヌ民族と日本人が諸権利において対等であったかのように扱い、植民地支配の事実は「近代化」という言葉で歴史の自然な流れのようにすり替えられ、国の歴史的責任はかき消されています。  

例えばアイヌモシリを「無主の地」として土地や資源などを奪ったことは、「(アイヌ民族に)近代的な意味での土地所有の観念がなかったこと、文字を理解する人はごく少数であった」ためとされ、まるで近代化に適応できなかったアイヌ民族の自己責任であるかのように描かれています。また「アイヌ語についても禁止した訳ではなかったが、文字も含めて日本語が推奨された。」とアイヌ語を否定し日本語を強制したことの責任を回避しています。上記の「文化の復興」に対する国の責任が、「配慮すべき」という文言を挿入して巧妙に回避されているのはそうした歴史認識のゆえです。 

こうした植民地支配とそれに伴う国の責任を認めない歴史認識を前提とする限り、政府は謝罪も賠償もせず、先住権・自決権の権利回復を行うはずもありません。アイヌ民族の直面する諸問題の歴史的本質を問わないがゆえに、その結果である「文化への打撃」「貧窮」についても彌縫策(びほうさく)のみが検討されています。  

具体的には「アイヌ文化の復興の対象」は、「言語・舞踊・工芸等に加えて、民族固有の生活様式の総体」として「広義の文化に係る政策」と謳われながらも、当事者性が希薄なため、その認識も施策も皮相で具体性を欠いたものとなっています。アイヌブランドを提唱するよりも、アイヌ民族自身がアイヌ文化本来の意義・姿を知らない状況に置かれている、その強いられた同化の深刻さについての歴史的責任こそ問われなければなりません。本当の意味での具体策は、アイヌ民族の自己回復の中からしか生まれてくるはずもありません、具体策はアイヌ民族自身の手に委ねるべきです。同様に、「貧窮」に対する生活支援もこれまで北海道で行われてきた福祉対策の延長として議論され、民族政策と呼べるようなものではありません。 

私達は、「法の下の平等」を口実に、歴史的責任を不問に付し、先住権・自決権を棚上げする日本政府・一部有識者の主張を認めることはできません。アイヌ民族と和人が対等・平等で人間的な信頼関係を切り結び、日本社会に真の人権と民主主義を確立させるべく、いまこそ植民地政策を正し、先住権・自決権の権利回復を行うべきことを政府に対して要求し、チャランケ(話し合い)をしていきたいと思います。 

   
  
①決議並びに申し入れ 
 2009年6月25日  
内閣総理大臣  麻 生 太 郎 様
内閣官房長官  河 村 建 夫 様 
アイヌ政策のあり方に関する有識者懇談会  
座  長    佐 藤 幸 治 様                                            
                                            旭川アイヌ協議会
                                            アイヌ・ラマット実行委員会  
私達、旭川アイヌ協議会は、チウペツコタン(旭川)において先住民族アイヌの伝統文化の継承や権利回復を目的に活動しているアイヌ民族団体であり、アイヌ・ラマット実行委員会はアイヌ民族と日本人労働者・市民で構成され、アイヌ民族の権利回復に連帯することでアイヌ民族と日本人が対等・平等で人間的な信頼関係できり結ばれることを目的として活動しています。  

周知のように、2007年9月13日に国連総会で「先住民族の権利に関する国連宣言」(以下、「権利宣言」)が日本政府も賛成して採択されました。この権利宣言は、支配民族が先住民族に対して一方的に植民地化と同化政策を押し進め、「先住民族の生得の権利、とくに土地、領域および資源に対する諸権利」を奪い併合したことを「歴史的な不正義」(前文第6段)と断定しています。  

その上で、この歴史的な植民地支配に対する補償・賠償も含めて「世界の先住民族の生存、尊厳および福利のための最低限の基準」(第43条)として、先住民族の政治的自由を保障する自決権(第3条)を承認し、土地・資源と賠償の権利(第26条・第28条)、民族文化の享有と伝承の権利(第11~第13条)、教育の権利(第14条)などの権利回復を宣言しています。

この権利宣言を背景にして、2008年6月6日に衆・参両議院で「アイヌ民族を先住民族とすることを求める決議」(以下、「国会決議」)が採択され、現在、日本政府も内閣の諮問機関として「アイヌ政策に関する有識者懇談会」(以下、「有識者懇談会」)を設置して提言を求めるなどアイヌ政策の見直しを進めています。

アイヌ民族にとって、日本政府、国会がアイヌ民族を先住民族として認めることは幾世代にも渡る念願であり、こうした動きはアイヌウタリを揺さぶりました。しかし日本政府は、今もアイヌ民族を権利宣言に言う先住民族と認めていません。また上記の国会決議では植民地支配・同化政策の事実が全く言及されませんでした。こうした姿勢と歴史認識は、アイヌ民族の奪われた権利の回復を再び先送り・棚上げするのではないかと強い懸念を抱かざるをえません。事実、有識者懇談会の提言は植民地支配に対する賠償問題等は棚上げされ、特別議席を認めず、新法を制定しないなどこれまでのアイヌ政策の枠内での手直しに止まることが明らかになっています。

私達は、過去・現在のアイヌ政策の見直しに際して、日本国家が一方的にアイヌ民族の独立と自由、そして尊厳を奪った植民地支配の歴史を誠実に直視し、それに対する謝罪と賠償も含めて歴史的責任を明らかにすることを何よりも求めます。それは「歴史的不正義」を正すことであり、アイヌ民族の自立と尊厳を確立することばかりではなく、日本国家・日本人がアイヌ民族に対して何を行ってきたのかその正しい歴史認識を取り戻すことにとっても必要不可欠なことです。それこそ、権利宣言に賛成した日本政府の国際社会に対する義務といえます。私達は権利宣言に基づく先住民族アイヌの1日も早い権利回復とアイヌ政策の歴史的転換を希求しており、下記の歴史的経緯を顧みて具体的要求を申し入れる次第です。

先住民族アイヌが現在直面する諸問題は、幕藩体制下による非道な収奪と圧迫に端を発し、とりわけ近代天皇制国家がアイヌ民族との間で一切の交渉を行わずにアイヌモシリ(アイヌ民族の住む土地)を「無主の地」として一方的に併合したことに起因します。アイヌ民族の共有の財産である土地と資源が日本国家に国有化され、その過程で広大な土地が皇室の「御料地」(全道面積の2割強)や日本人移民・企業の分配地として奪われました。また戦後においても、アイヌの給与地が農地改革の対象となって奪われています。この植民地政策が、現在のアイヌ民族の政治的・経済的・社会的苦難に直結しており構造的差別をつくりだしています。  


また、いまも日本社会でアイヌ民族を「完全に同化した」「滅びゆく民族」とする民族的蔑視・民族否定が厳然と存在しています。それは優勝劣敗の差別思想に基づいてアイヌ民族を「旧土人」と蔑称し、「保護」の名のもとに同化政策が押し進められ、単一民族国家観(民族的優越感)による皇民化教育が日本人に徹底されたことに起因しています。具体的には、「無知蒙昧」で「生存競争の結果年々減少の傾向」(北海道旧土人保護法制定趣旨)にあると蔑み、伝統的生業である狩猟・漁撈を禁止してアイヌ民族を給与地に封じ込めて農耕民化を強い、民族文化・風習の禁止、創氏改名、教育におけるアイヌ語の禁止など民族絶滅政策とも言うべきものです。そればかりではなく、先住諸民族の存在を無視したロシアとの領土交渉によって「樺太」「北千島」のアイヌ民族が強制移住させられ、開拓使仮学校(東京)への強制連行、御料地に関わる強制移住などアイヌ民族の生活と生命を蹂躙し、コタンを破壊した歴史的責任は消えることはありません。1869年にアイヌモシリに「開拓使」が設置されて侵略支配が本格化して140年。上記のようにアイヌ民族から収奪したもの、強いられた犠牲の大きさは量り知れません。また、さらに諸地域での暴力支配、虐殺などの痛苦な歴史のありようは調査される必要があります。  

日本政府は1991年まで「日本は単一民族国家」と国際的にも主張するなど戦後も同化政策を継続し、現在もそのアイヌ政策の誤りがアイヌ民族の民族性の回復に深刻な困難を与えています。こうした中でも、アイヌ民族は同化に抗い先祖の累々たる犠牲のもとで伝統文化と民族精神を継承し、アイヌ民族の誇りをもって奪われた権利の回復と差別撤廃を求めてきました。  

権利宣言にある先住民族の権利は、既存の国際法上の「民族」と「人民」に関わる権利と原則を先住民族に差別なく平等に適用したものに他なりません。新たな権利ではなくすでにあらゆる民族に保障されるべき権利として確立しているものです。(第1・2条)日本政府は先住民族アイヌと協議・協力して権利宣言を履行すると共に、適用を保障するための法整備の義務があり(第38条)、(「日本国が締結した条約および確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする。」日本国憲法第98条2項)、アイヌ民族に対するこの「最低限の基準」の適用にさえ消極的な姿勢は、歴史的責任において到底許されるものではありません。  

日本政府は速やかにアイヌ民族を真に先住民族と認めるとともに、アイヌ民族の先住権・自決権を尊重し、歴代の日本政府が採用し現在まで続いてきたアイヌ民族に対する同化政策・植民地政策を撤回すべきです。その上で、アイヌ民族を主体とした協議・協力によって、「保護」「恩恵」ではないアイヌ民族の犠牲への謝罪・賠償も含めて正当な権利回復を行うべきです。そうしてはじめてアイヌ民族との間で対等・平等な関係が生まれ、日本社会・日本人に真の人権と民主主義が醸成され、国際社会において名誉ある地位を占めることができると思います。日本社会のアイヌ民族に対する蔑視、無関心・無自覚さは従来のアイヌ政策が生み出したものであり、アイヌ政策は早急かつ根本的に転換されなければなりません。私達は、こうした趣旨から下記の要求を申し入れます。なお、この要求は旭川アイヌ協議会の総会で決議されたものであり、アイヌ・ラマット実行委員会も全面的に支持するものです。


(1)日本政府及び天皇は、アイヌモシリ植民地支配・同化政策の歴史的な責任を認め謝罪を行うこと。 
(2)日本政府は、先住民族アイヌの生得の権利、とりわけ土地、領域、資源を奪ってきた賠償として5兆円を支払うこと。また、アイヌ民族に対する強制移住、強制連行、さらに虐待・虐殺などの人権侵害についてアイヌ民族の関与する被害の調査の上、その歴史的責任に対して賠償を行うこと。 
(3)アイヌ民族に対して、アイヌモシリの国有地・公有地と天然資源を返還し、漁業権・狩猟権・伐採権などの権利回復を行うこと。いわゆる「北方領土」に関してアイヌ民族の自決権を認め、その他のものも含め原状回復の困難な土地・天然資源の利用に関しては国の責任で代償措置をとること。 
(4)国会と地方議会にアイヌ民族の特別(民族)議席を設けること。 
(5)日本政府は、アイヌ民族が自主的に運営を決定し、幼児期から高等教育までアイヌ語を中心にアイヌ文化・歴史等を学べる教育機関を設置してその財政的保障を行うこと。日本の公教育機関で、アイヌ民族の言語を学べ、アイヌ民族の立場からその歴史と文化への正しい理解を醸成する系統的な教育カリキュラム・制度を保障すること。
(6)全国のアイヌ民族の実態調査を行い、アイヌ民族の先住権・自決権に基づく施策を保障するアイヌ民族法を制定すること 
(7)日本政府は、アイヌ民族の墓地を荒らした遺骨収集の経緯を調査するとともに、その返還を速やかに行うこと。当該(返還)地域に納骨堂を国の責任で建設すること。   

参考資料(外務省訳から抜粋) 
United Nations Declaration on the Rights of Indigenous Peoples 先住民族の権利に関する国際連合宣言 (2007年9月13日採択 A/RES/61/295)  
 先住民族が、特に植民地化並びにその土地、領域及び資源の奪取の結果として歴史的に不正に扱われてきたこと、それによって特に自己のニーズ及び利益に合致する発展の権利を行使することを妨げられていることを懸念し、

第一条 先住民族は、集団又は個人として、国際連合憲章、世界人権宣言及び国際人権法において認められるすべての人権及び基本的自由を十分に享有する権利を有する。 

第二条 先住民族及びこれに属する個人は、自由であり、かつ、他のすべての民族及び個人と平等であるものとし、その権利の行使に当たり、特に先住民族出身であること又は先住民族に属することに基づくいかなる差別も受けない権利を有する。  

第三条 先住民族は、自決の権利を有する。この権利に基づき、先住民族は、その政治的地位を自由に決定し、並びにその経済的、社会的及び文化的発展を自由に追求する。  

第十一条 
1.先住民族は、その文化的伝統及び慣習を実践し、及び再活性化させる権利を有する。この権利には、過去、現在及び未来にわたる先住民族の文化の表現(例えば、考古学上の及び歴史的な遺跡、工芸品、意匠、儀式、技術、視覚的芸術、舞台芸術、文学)を維持し、保護し、及び発展させる権利を含む。  
2.国は、先住民族の自由な、事前の、かつ、情報に基づく同意なしに、又は先住民族の法、伝統及び慣習に反して奪われた文化的、知的、宗教的及び精神的財産に関し、当該先住民族と連携して設けた効果的な仕組み(原状回復を含む。)を通じた救済を行う。
 
第十二条
1.先住民族は、その精神的及び宗教的な伝統、慣習及び儀式を明示し、実践し、発展させ、及び教育する権利、その宗教的及び文化的な場所を維持し、及び保護し、並びに干渉を受けることなくこのような場所に立ち入る権利、その儀式用の物を使用し、及び管理する権利並びにその遺体及び遺骨の帰還についての権利を有する。  
2.国は、関係する先住民族と連携して設けた公正な、透明性のある、かつ、効果的な仕組みを通じて、自国が保有する儀式用の物並びに遺体及び遺骨へのアクセス又はこれらの返還を可能にするよう努める。  

第十三条 
1.先住民族は、その歴史、言語、口承による伝統、哲学、表記方法及び文学を再活性化し、使用し、発展させ、及び将来の世代に伝達する権利並びに社会、場所及び個人に固有の名称を付し、及び継続して使用する権利を有する。
2.国は、1に掲げる権利が保護されることを確保し、並びに必要な場合には通訳の提供又は他の適当な手段を通じて、先住民族が政治上、法律上及び行政上の手続を理解し、並びにこのような手続において理解されることを確保するため、効果的な措置をとる。  

第十四条 
1.先住民族は、その文化に則った教育及び学習の方法に適した方法によって、自己の言語で教育を提供する教育制度及び教育機関を設立し、及び管理する権利を有する。  
2.先住民族に属する個人、特に児童は、国によるあらゆる段階及び形態の教育についての権利を差別なく有する。
3.国は、先住民族と連携して、先住民族に属する個人(当該先住民族の社会の外で生活している者を含む。)、特に児童が、可能な場合には、先住民族自身の文化についての及び当該先住民族自身の言語による教育を受ける機会を有するようにするため、効果的な措置をとる。  

第二十六条 
1.先住民族は、自己が伝統的に所有し、占有し、又は他の方法で使用し、若しくは取得してきた土地、領域及び資源についての権利を有する。 
2.先住民族は、自己が伝統的に所有し、他の方法で伝統的に占有し、若しくは使用することにより保有しており、又は他の方法で取得した土地、領域及び資源を所有し、使用し、開発し、及び管理する権利を有する。
3.国は、1及び2に掲げる土地、領域及び資源について、法的に認め、及び保護する。この場合において、関係する先住民族の慣習、伝統及び土地に係る権利についての制度を十分に尊重して認めるものとする。 

第二十八条 1.先住民族は、自己が伝統的に所有し、又は他の方法で占有し、若しくは使用してきた土地、領域及び資源であって、自己の自由な、事前の、かつ、情報に基づく同意なしに没収され、奪われ、占有され、使用され、又は損害を被ってきたものについて、原状回復(又はそれが可能でない場合には公正、公平、かつ、衡平な補償)その他の手段によって救済を受ける権利を有する。 2.関係する民族が自由に同意する場合を除くほか、補償については、同等の質、規模及び法的地位を有する土地、領域及び資源という形態、金銭的補償という形態又は他の適当な救済という形態をとる。 

第三十八条 
国は、この宣言の目的を達成するため、先住民族と協議し、及び協力して、立法措置その他の適当な措置をとる。 

第四十三条 
この宣言により認められる権利は、世界の先住民族の生存、尊厳及び福祉のための最低限度の基準を構成する。